私なりの「オペラ名作選」そのストーリーと名曲
歌劇「トゥーランドット」のストーリー (イタリア語)ジャコモ・プッチーニ
<初演>1926年4月5日(昭和元年)ミラノ・スカラ座
年老いてから授かった中国皇帝の一人娘トゥーランドット姫は、産まれながらに女帝の風格を持つ、玉のような可愛い御子です。皇帝は嬉しくて溺愛しました。長ずるしたがい、この世のものとは思えない、たぐいまれな美貌と神の頭脳を持つ美少女に成長し、皇帝は自慢です。国民も姫君を敬愛し、誇りに思っています。皇帝はトゥーランドット姫が16歳になった時(私の勝手な想像です)、中国の統治を任せました。
国民から敬愛されていた清純で崇高なリン姫の統治の時代に、中国は、外敵に攻め滅ばされ、リン姫は犯され非業の死を遂げたのです。先祖のリン姫の非業な死は清純な乙女トゥーランドット姫にはどうしても許す事が出来ないのです。次第に自分は先祖のリン姫の生まれ変わりと思うようになり、外敵への復讐を誓った姫からは、笑いや喜びや慈悲の心が無くなります。(このような感情になるのは14,5歳の清純な乙女だからだと思うです)
頭脳明晰なトゥーランドット姫は、リン姫の復讐心と外敵から中国を守る統治者の使命感から「命を懸けた3つの謎への挑戦」と言う決闘による戦争を思いつきました。姫が負ければ誰であろうとその者と一緒になるという従属と奴隷を覚悟の挑戦です。まさに国の命運を懸けた決闘なのです。(頭脳明晰な乙女の無謀な思いつきからも、姫は16歳で王位に就いたと思うのです。
マダム・バタフライは15歳でピンカートンに嫁ぎ、16歳でピンカートンの子をもう産み、18歳で自害します。プッチーニは多分トゥーランドットの年齢もマダム・バタフライと同じ年齢に想定したかも知れません。)
隣国の王子達は氷のように冷たい心の絶世の美女を、慈愛と愛の歓喜を知る姫君に戻したいという男の純情で「姫の出す3つの謎」に挑戦しますが、ことごとく打ち破られ処刑されてしまいます。国民は、敬愛する姫君が自己犠牲の挑発で王子達を殺すことを憂い悲しみ、慈愛に満ち愛の喜びを知る人に早く戻って欲しいと願っています。
処刑された王子達は死者になっても、なお姫を慕う、トゥーランドット姫の魅力とはどんなものでしょう。仮にも一国の王子達です、魔性の魅力の虜になるほど愚かとは思えません。清純で明晰でこの世のものとは思われない、たぐいまれな絶世の美女トゥーランドット姫は、「氷のような心になってしまった清純な天の羽衣の天女」なのです。男は「命を懸けても愛の歓喜を呼び戻して幸せにしてやりたい」という「男命の純情」に駆られ、閉ざされた門をこじ開けるように、渾身の力を込めて銅鑼を叩き、姫が出す「3つの謎」に挑戦するのです。
「トゥーランドット」は、プッチーニが集大成を期した最初のグランドオペラですが、不孝にして、未完のままこの世を去りました。弟子のアルファーノが完成させたそうです。
トスカニーニはトゥーランドット初演のスカラ座で指揮を執り、リューの死亡のくだりで、「マエストロはここで筆を絶った」といって、指揮棒を置き、席を立ったというエピソードを読んだことがあります。多分、プッチーニの無念さに耐えられず、指揮を執ることができなくなったのだと思います。
アレーナ・デ・ヴェローナ
アレーナ・ディ・ベローナは紀元1世紀に建てられた2万人が収容出来る野外円形劇場です。夕暮れが遅いせいか夜の9時に上演されます。照明を点けないため、入場者には赤いろうそくが渡されます、観客は小さなろうそくに明かりをつけてプログラムを見ます。暗い円形劇場に無数の小さな光が輝き、オペラをこよなく愛し楽しむイタリアの夏の風物詩です。何ともいえない風情です。
ある著名な海外旅行の紹介本にヴェローナでは観光用に夜オペラを上演すると紹介していました。
イタリアの人たちは夜のアレーナでオペラを観劇する事を心待ちにしています。シーズンになると各地からアレーナでのオペラを見に集まります。宿はなかなか取れません。車で寝る人も多いと聞きます。それを心無い日本の旅行誌は観光用のオペラだとけなした紹介をするのです。京都の大文字やきを観光用と紹介するようなもの
2001年7月5日アレーナ・ディ・ヴェローナの「アイーダ」観劇記へ
1983年アレーナ・ディ・ヴェローナで上演「トゥーランドット」の紹介
<登場人物>
トゥーランドット姫(ソプラノ):ゲーナ・ディミトローヴァ
タタール王子カラフ(テノール):ニコラ・マルチヌッチ
チムールの女奴隷リュウ(ソプラノ):セシリア・ガスディア
タタール王チムール(バス)
中国の皇帝(テノール)
大臣ピン(バリトン)
大臣パン(テノール)
大臣ポン(テノール)
合唱:ヴェローナ歌劇合唱団
演奏:ヴェロ−ナ歌劇交響楽団
<舞台装置>
円形劇場の階段席を広大な舞台の前面は広場になっていて、後方は、上部しか見えない宮殿が造られ、左右にせり出した城壁が宮殿を囲んでいます。城壁の中央には、真ん中に龍の彫刻が施してある50段ほどの宮殿に続く階段があり、広場から10数段程上がったところに広いテラスがあります。テラスの左側にドラが置かれていて、テラスから40段程登った先がバルコニーになっていて玉座があります。
<時代:太古の中国>
ドラが鳴りオペラの開演を知らせます(この劇場ではドラが合図なのです)
<第1幕>
トゥーランドット姫が治める太古の中国の物語で、夕暮れ近くの北京宮殿前の広場が舞台です。
氷のような心の絶世の美女トゥーランドット姫が統治する太古の中国。姫は、復讐の「3つの謎」の掟を制定しました。北京宮殿前の広場で広報大臣が「姫の出す3つの謎を解いた者に、姫は妃となられる、解けなければ斧で首を切り、晒すという掟がある。今宵、月の出の刻、謎が解けなっかたペルシャの王子が処刑される」と布告しています。群衆が処刑を見に集まる中、首切り役人達が大きな回転砥石を持ち出し合唱します。
(1)油を塗れ、斧を研げ(首切り役人達の合唱)
「油を塗れ、斧を研げ、トゥランドット様が治める限り、俺達の仕事は無くならない、命のいらないものは、ドラを叩け」
処刑見物で雑踏する宮殿前の広場で、国破れ、流浪するうち盲目となったタタールの王チムールと王を助ける奴隷娘リュウは、雑踏の中で倒れた老人(盲目の王)を助けにきた青年(王子カラフ)に再会し、喜び合います。王は「手を引き、物乞いをして、私を助けてくれた」とリュウを紹介します。カラフは「何故そんなに親切にするのか」と尋ねます。リュウは
(2)遠い日、お城で(ソプラノ:リュウ)
「ある遠い日、お城で、私に優しく微笑んで下さいましたから」と、カラフに思いを寄せる心情を美しい旋律で歌います。
処刑を見に集まった群衆は、月の出を待ち遠しく合唱し、やがて青白く光る大きな月が宮殿の後方に昇ります。
(3)お月様はまだ出ぬか(群衆の合唱)
「お月様はまだ出ぬか、青白い顔を早く見せておくれ、おお、出てきた、血の気を失せた青白い顔、天に広がって行く、フーテンパオ、フーテンパオ」と、首切り人フーテンパオを呼びます。バルコニーに大きな青龍刀を振りかざした大男のフーテンパオが現れます。(1996年9月17日、京都を旅したとき夕闇の濃い群青色をした東山連峰から巨大な満月の月の出を見る機会に恵まれ、トゥーランドットの月の出の場面を思い出し感動した)
白いランタンを手にして悲しげに合唱する子供達の僧の後から、処刑されるペルシャ王子が、晴れ晴れしい顔で刑場に向かいます。
(4)コオノトリが来たのに(子供の僧の合唱)
「コウノトリが来たのに、春の花は咲かない、雪解けもしない、お姫様、私たちのところまで下りてきて下さい」。群衆は凛々しい王子の姿に感激して姫に赦免を懇願し、王子カラフは「なんと無慈悲な姫か」と姫をなじります。姫君がバルコニーに姿を見せ、手を交差し、無言のまま宮殿の中に消えていきます。
無表情で冷たさの残るトゥーランドット姫を一目見たカラフは「この世のものとは思えぬ、まるで夢のようだ」といって姫の虜となってしまい、「3つの謎」に挑戦する決意をします。父は「命を賭けてはならぬ、ここを立ち去ろう」と説得し、リュウは「せっかくあえたのに」と嘆きますが、人とは思えぬ姫の魅力にうつろとなったカラフは、聞き入れず、ドラに向かいます。
ピン、パン、ポンの3人の大臣が登場しカラフの挑戦を、冷笑したり、或いは真剣に、或いは禅の思想を持ち出して、やめるよう説得しながらカラフを追い返します。
(5)何をしにきた、ここは屠殺場の入り口だ(ピン、パン、ポンの3大臣)
「何をしに来た、ここは屠殺場の入り口だ、立ち去れ、愚か者、姫は着物を脱げばただの肉では無いか、100人めとれ、その方がたのしいぞ、何を血迷っている。姫は無だ、姫は存在しない」
リュウはカラフに駆け寄り美しい旋律の有名なアリアを歌います。
(6)お聞き下さい王子様 (リュウのアリア:ソプラノ)
「お聞き下さい王子ざま、リュウはもう耐えられません、あなたさまの名を呼びながら、長い苦しい旅を続けてきました、明日あなた様の運命が決まったら、老いた父君はあなたを失い、私はほほえみの影を失います。リュウは胸が張り裂けそうです」
カラフは泣き崩れるリューを優しく抱き起こし、カラフの名アリアを歌います。
(7)泣くなリュウ (カラフのアリア:テノール)
「泣くなリュウ、お前の主人は明日たった一人になってしまうだろう、遠い日の私のほほえみに生きてきたのなら、生き続けて欲しい、そして彼を見捨てないで一緒につれていって欲しい、優しいお前の心にすがる、ほほえむことが出来なくなる男からの願いなのだ」
と言って、テラスに駆け上がり、3人の大臣の制止を振り切り、運命のドラを、力を込めて3つ叩き、「トゥーランドット」と叫びます。3人の大臣は「おしまいだあ」とテラスから消えていき、第1幕が終わります。
<第2幕第1場>
ピン、パン、ポンがテラスに登場し
(8)運命のドラが宮殿や町に鳴り響き(ピン、パン、ポンの3大臣)
「ドラが宮殿や町中に鳴り響き、眠りをかき消された」。「俺は婚礼の用意をしよう」、「俺は葬儀の方を」、「俺達は何に成り下がった、首切り大臣か、ドラがなる度に姫は喜んで首をはねる、広大な中国はもうおしまいだ」、「竹藪と池があるふるさとにはもう帰れない」、「姫が愛に身を震わすように羽根の布団を用意しよう、昔、恋を否定する姫がいたがもういない、今は愛の歓喜に酔いしれ、平和な中国はますます繁栄する。こんなことは夢だ」
と歌い、舞台は赤いランタンに囲まれた婚礼用具、白いランタンに囲まれた葬儀用具を持った大勢の役人の一団が通り過ぎ、バレーダンサーが「王子を処刑して、首を晒し、姫が喜ぶ」と、道化の寸劇を演じます。
夜が明け、広場は雑踏し、壮大な「3つの謎の儀式」が始まります。
城壁には戦の旗が立ち並び、ラッパが響きます。まさしく国の威信をかけた戦争です。大勢の高官や賢人達が左右の城壁の階段を下りてきます。役人、兵士、民衆が集まり、皇帝がバルコニーの玉座に座ります。テラスにはカラフが控えています。皇帝はカラフを見下ろしカラフに「挑戦を辞めよ」と説得します。
(9)私はもう若くない、血を見るのは沢山だ(皇帝:テノール)
「私はもう若くない、血を見るのは沢山だ、安寧に暮らしたい、若者よ、命を無駄にするな、挑戦をやめよ」など幾度も説得しますが、カラフは「天子様、私は挑戦します」と答えるばかりです。皇帝は仕方なく「お前の運命に従え」と挑戦を許します。
(10)この暗い宮殿の中で (ドラマティックソプラノ:「トゥーランドットのアリア」)
何かに執りつかれた、この世のものとは思えぬ姫の神秘的な美貌に、、何十人もの王子達が、挑戦し敗れ、首を切られています。国破れ、追われ、北京にたどり着いたチムールの王子カラフは、3つの謎に破れたペルシャ王子の処刑に遭遇し、「なんと無慈悲な姫か」となじりますが、姫を見たとたん、男の命がけの純情の虜になってしまい、3つの謎に挑戦します。皇帝を始め高官や賢人、役人、兵士、民衆が集まる壮大な「3つの謎」の儀式に、姫が挑戦者カラフを見下ろして歌うアリアは、震えがくるほどの迫力のあるドラマティーコソプラノの名アリアです。
「中国は、千年前のロウリーン姫の統治の時、異国チムールに攻められ破れました。崇高で清純な姫君は悲痛な叫と共に死んだのです。姫は私の心に蘇りました。私は姫の敵討ちをするのです、私に挑んだ何十人もの王子は若い命を絶ちました。私は誰のものにもならぬ、異邦人よ、無駄に命を落とすな、立ち去るがよい、謎は3つ死は1つ」。とトゥーランドットが歌うと、カラフは「謎は3つ、生命は1つ」とやり返し、生死を賭けた戦いがいよいよ始まります。
(11)よいか、異邦人 (ドラマティックソプラノ:トゥーランドット)
絶世の美女トゥランドット姫が、群衆や、父の皇帝までも敵にまわして、生死をかけた「3つの謎」(姫も負ければロー・ウ・リン姫と同じ運命と思っている)の戦いに、すざましい迫力のあるドラマティック・ソプラノで挑みます。
「よいか異邦人、宵闇に幻影は虹色となって飛び、それを祈願する、しかし暁と共に消え去る、夜毎に生まれ、朝に死ぬものは何か」。しばらく考えてカラフは答えます「それは希望だ」。賢人達の正解を意味する「希望だ、希望だ」の声。姫は「そうです、希望ははかないものです」と応えて階段の中程までゆっくり下りて歌います。
「炎と同じように燃えるが炎ではない、それは迷いである。炎のようにもなれば、情熱的にもなる、そして無気力にもなる。お前が負ければ死ぬ。お前が死ねば冷たくなる」カラフは考えます。皇帝は「異邦人よ、負けてはならぬ」と声援し、民衆も「答えよ、答えよ」と応援します。「それは、血潮だ」とカラフが答え、賢人達は「血潮だ、血潮だ」と正解を知らせます。群衆は歓声を上げ「異国の人よ、負けるな。」の大声援です。
「そのもの達を叩き出せ」と、姫はヒステリックに叫び、階段を駆け下り、ひざまづくカラフに近寄り、にらみつけて歌います。
「お前に与える冷たさは炎となり、お前の炎は冷たさとなる、それは何か」。カラフは考えますがなかなか答えがでません。姫は軽蔑した眼差しで「青ざめているな、破れたであろう。さあ答えよ、冷たさは炎となる」と歌い、勝ち誇ったように薄笑いを浮かべ、階段を昇り始めます。群衆は「負けてはならぬ、答えよ」と必死に声援を送ります。カラフは、姫に対する命懸がけの熱い想いに気づき、叫びます。「勝った、姫の冷たさを私の情熱が溶かす、答えは、それはトゥーランドットだ」。賢人達は「トゥーランドットだ、トゥーランドットだ」と興奮して正解を叫びます。皇帝は喜び、群衆から「万歳、万歳、中国万歳、皇帝万歳、愛が姫を幸せにする。繁栄よ、永遠よ」と歓喜の大合唱がわき起こります。
(12)私は神の子、引き渡してはなりません(トゥーランドット)
「3つの謎」に破れた姫は、屈辱に打ちひしがれ、「私は、神の子です、あのものに引き渡してはなりません。ロー・ウ・リン姫と同じ運命になります」と必死に皇帝にすがります。皇帝は「掟は守らねばなぬ」といって聞き入れません。カラフは、姫の名誉と姫への命がけの純情がどういうものかを姫に知らせるために、「私は姫の定めた謎を解きました。今度は私から謎を出します。明日の朝までに私の名前を解けば、あなたの勝ちです。そして私は死にます」と告げます。皇帝は、カラフの姫に対する思慕の強さに「明日の朝、お前がわしの息子になることを願っている」と言ってうれしそうに席を立ちます。
首切り役人のダンサーがカンフーの「剣の舞」を踊り、剣をカラフに向け、殺そうとするところで第2幕第T場が終わります。
<第2幕第2場>
夜が更けても役人達は「誰も寝てはならぬ、やつの名前を聞き出せ」と騒ぎながら、名前を知る者を探し廻っています。カラフは城壁の片隅に座ってこの騒ぎを聞きながら、姫の名誉を傷つけずに愛を得るには、姫に勝ちを譲るしかないと、有名なテノールのアリアを歌います。
(13)寝てはならぬ (カラフのアリア:テノール)
「寝てはならぬか。私の秘密は私の胸にあり、誰も知らない。私は明日の朝、あなたの唇に私の名前を告げよう。そして、あなたは私の愛を受けるだろう。必ず勝つ。夜よ早く明けてくれ」。
ピン、パン、ポンが現れ「ここを立ち去ってくれ、望みは何か、女か、宝石か」と、しなやかな美人達(バレーダンサーが演じる)や、沢山の宝石を差し出しますが、カラフは「いらぬ」と拒否します。群衆はカラフを殺そうとしますが、3人の大臣がこれを制止します。
「やつの名前を知ってる筈だ」と言って、役人達が王とリュウを引っ張って来ます。驚いたカラフは「あのもの達は私の名前を知らない」と言いますが、役人達は「拷問にかけろ」と騒ぎます。リュウは王をかばい「私だけがその方の名前を知っています。でも、殺されても言いません」。姫が現れ「名前をいえ」とリュウに迫ります。「言うくらいなら死にます」、「なぜ死ぬのか」と姫、「死ぬことが愛だからです」とリュウは告げますが姫にはこの意味が分かりません。リュウは、美しい旋律で「お聞き下さい姫君様」と姫に話しかけます。
(14)心に秘めたこの愛(リュウ)
「お聞き下さい姫君様。私の心に秘めたこの愛で、私が死ねば、あの方はお勝ちになります。そして姫君にあの方を差し上げることができます」と歌い、この歌劇でもっとも有名な「リュウのアリア」へと続きます。
(15)氷のような姫君の心も (リュウのアリア:ソプラノ)
優しい王子にかなわぬ恋心を抱いている奴隷娘リュウに助けられなが、盲目となったチムール王は、流浪のはて、北京にたどり着き、王子カラフと再会します。トゥーランドット姫を一目見たカラフは命を賭けて姫の出す3つの謎を解きますが、屈辱に打ちひしがれた姫の姿を見て「夜明けまでに私の名前を言い当てたらあなたの勝ちだ」と告げて立ち去ります。名前が分からなかったら殺されてしまう役人達は、カラフと話をしていた王とリュウを見つけだし、名前を言わなければむごい拷問にかけると脅します。リュウは「私だけがその人の名前を知っている」と言って王をかばい、そこに現れた姫に向かい最も有名なアリア「氷のような姫君の心も」を歌い、自らの命を絶ちます。
「氷のような姫君の心も、あの方の愛で溶けるでしょう。そして愛をお受けになるでしょう、私は死ぬことであの方に愛を差し上げられます。そして私は二度とあの方を見ることはないでしょう」と歌い、役人の刀を奪い取り自分の胸に突き刺して死んで行く壮絶な場面でのアリアで、プッチイーニの最後のアリアです。(プッチーニはこのアリアを完成することなく他界してしまい、弟子のアルファーノが補曲したということです)
「可哀想なリュウ、こんな気持ちになったのは初めてだ、安らかに」と民衆は合唱し、盲目の王は
(16)起きてくれリュウ(盲目の王チムール)
「起きてくれ、リュウよ、夜が明けるぞ」とリュウにすがりながら揺り動かします。王は突然すっくと立ち上がり「善良な魂が復讐するであろう」と叫び、「お前と一緒にどこまでもついて行く、暗いところまでも」と兵士に担がれたリュウの手を握りしめ、よろめきながら一緒についていきます。
(ここまで制作してプッチーニは死去しますが、弟子のアルファーノが完成させます。指揮者はプッチーニを讃え、この場面で1分間ほど演奏を中断します。トゥーランドットの上演ではこのようなことが行われるようです。スカラ座の初演で指揮を執ったトスカニーニは「ここでマエストロは筆を絶たれた」と言って、悲しみのため指揮を執ることが出来なくなったと伝えられています。)
(17)初めての涙 (トゥーランドットとカラフ)
荘厳なリューの死に初めて胸を打たれ群衆は、悲しみをかみしめ、立ち去り、姫とカラフの2人だけになりました。カラフは姫に近づこうとしますが、姫は「神の子です、不敬であろう」と拒みます。カラフは「あなたの氷のような冷たさは偽りです」と言って姫に口づけします。姫はカラフにしがみつき「初めての涙です、あなたを見た時、今までに味わったことのない感情を覚えました。これ以上、私に恥辱を与えないで下さい。あなたの秘密と一緒にここを立ち去ってください」とカラフに懇願します。「私の秘密、そんなものはありません。私の名前はタタールの王子カラフです」と姫に自分の身分と名前を告げます。「名前が分かったわ」と姫は叫び、目が輝きます。
夜が明け「カラフの謎を解く儀式」が始まります。高官や役人、兵士、民衆が広場に集まり、皇帝が入場しました。姫は階段の中程まで昇り「父上、この方の名前が分かりました」、カラフは不安になります。姫は笑顔で「この人の名はアムール(愛)です」と叫び、不安そうにテラスに立っているカラフを招きます。二人は一緒にゆっくりと皇帝のところに行きます。群衆から大歓声が起き、宮殿は歓喜に包まれます。
(18)愛よ、世界よ、平和よ、永遠に (全員の合唱)
「愛よ、世界よ、平和よ、中国バンザイ、永遠に」の大合唱とともに、荘厳な祝福と歓喜の曲が流れる中、壮大なグランドオペラ「トゥーランドット」の幕が下ります。
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2001年6月30日浅利慶太氏演出ミラノ・スカラ座「トゥーランドット」観劇記へ | |
1999年4月渋谷オーチャードホールのトゥーランドット |