アレーナ・ディ・ヴェローナ「アイーダ」観劇記

 

石 田 眞 一

                        

 

2001年7月5日、午後9時の「アイーダ」の開演までには十分時間があり、アディジェ川まで散歩した。アレーナからエルベ広場までのマッツィーニ通りやエルベ広場は、野外オペラのシーズンのせいか、前回来たときと比べ観光客が非常に多い。ケナーの演奏家や砂絵の画家などが、自慢の腕を披露してCDや額を売っている。店をのぞきながら歩いていると、ウインドーの中には、陳列商品の間に、オペラ衣装を付けたアイーダや椿姫やリゴレットなどの挿絵画の小品をいっぱい並べ、オペラシーズンの到来を街中が楽しんでいる空気が伝わってくる。しばらく行くとおみやげ雑貨を売っている店の玄関に、「女の子が生まれました」と知らせる、30センチ位のピンク色のリボンをつけた手作りの花輪がぶら下がっていた。子供が生まれると、玄関に、女の子はピンクの、男の子は水色のリボンを付けた手作りの花輪をぶら下げるのだそうだ。

ホテルの下のレストランで夕食を済ませアレーナの広場に出かけた。

午後8時を過ぎているのに、2万人を収容する古代の野外劇場アレーナには夕日が当っている。アレーナの前の広場は、着飾った地元の紳士淑女や、ラフな服装の若者や観光客などが、野球場の開場を待つように並んでいる。われわれも並んだ。広場から見るとアレーナの高さが予想外に低いので以外に感じたが、劇場のグランドは広場から3m程下がったところにあり、古代からの堆積により広場がアレーナの2階部分のところにあることが中に入ってみて分かった。広場から1mくらい降りたところが入り口になっていて、洞窟のような古代劇場の通路(写真右)を通り、売店で、パンフレット、アレーナ特製のオペラグラスと小さな懐中電灯を買い、狭い階段を上がって競技場の観客席に出た。席はバルコニーになっている貴賓席の隣であった。正面の舞台からは50メートル位離れている。グランドの席はバルコニーから5mほど下にあり、グランドいっぱいに椅子が並べてある。階段席の上部は自由席になっていて、石の階段席なので座布団を借りて座る。指定席は中段から下の部分で、石の階段に椅子が設けてある。

隣に座った夫婦は、パニーノと大きなチーズの塊をかじりながらワインを飲んでいる。多分夕食の弁当なのだろう。

自由席の若者の集団がウエーブをやったら、観客がこれに呼応して、ウエーブが流れた。早く入場した観客にはローソクが配られたのか、まだ明るいのに、気の早い人は火を付け、それがきらきら輝いていた。

舞台は青色の立方体をいくつも建てて宮殿を演出し、その前にプールを作ってナイル川を演出し、舞台の後方の階段を利用して青色の三角形を作ってピラミットを演出するなど、見事な舞台美術は、スカラ座の浅利慶太氏演出の「トゥーランドット」と比べ斬新で垢抜けしている。管弦楽団が入場し音あわせをする。

銅鑼を手にオペラ衣装の若い女性が入場し、まもなく開演するという合図の銅鑼を1つ叩いて退場した。5分後に2つ叩き、5分後に3つ叩いて退場すると、9時10分、照明がすべて消され「アイーダ」の開演となった。

「勝ちて帰れ」の場面では、舞台後方の階段席の最上部のアレーナの壁から、大きなオレンジ色の満月が昇りはじめた。

宮殿に見立てた舞台装置の後方に、巨大な古代劇場の観客席の階段を利用してピラミッドに見立てた青色の三角形の上部から、本物の大きな満月の月の出を見ると、満月の月の出までも計算したスケールの大きな演出に、象が出てきた後楽園の「アイーダ」とは、一味違う、本物のグランドオペラを見たような気がする。

「凱旋の場」の合唱「エジプトとイージスの神に栄光あれ」では、周囲の観客も歌い出した。舞台と一緒になって歌いたいのだ。

「ナブッコ」上演のときの第2幕、ヴェルディがイタリアの統一を念じて作った「行け、わが思いよ、黄金の翼に乗って」の合唱の場面では、アレーナ全体が大合唱になるだろうと思った。スカラ座とは違う、オペラの楽しみ方がここにはある。

第2幕、ナイル川に見立てた舞台装置上のプールを利用して、凱旋を祝福する数十人のバレリーナが踊るバレーの場面は壮大で、印象深い。

第2幕が終わり、照明が入ると、ナイターの野球場の明るさとなる。

30分の休憩の後、第3幕が始まる。第4幕の「さらばこの大地よ」を歌いながら、アイーダとラダメスが墓の中に消えてゆくラストシーンでは、古代の巨大劇場が真っ暗になり、大きな歓声が沸き起きる。スカラ座では味わえない感動である。午前0時45分に終演して、出演者や指揮者や演出家のカーテンコールが終わり、外に出た。午前1時を過ぎていた。広場は満足げな観客であふれ、中空には青白い満月が輝いていた。

このアレーナ・ディ・ベローナでは毎年、この時期に、「アイーダ」と「ナブッコ」が上演されるようだ。 

 

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