私なりのオペラ鑑賞雑記

                                       

 「ローエングリーン」清純な乙女エルザ姫の不安と信仰の厳しさと優しさ

 

ドイツ、プラバンド地方の領主はエルザ姫と嫡子の幼い王子の二人を残し死去しました。領主の死後、領国の統治をめぐり陰謀が渦巻いています。ある日、エルザと弟の王子は森に行き、王子は行方不明になってしまいます。王から遺児の後見を託されたエルザの許婚テルラムント伯爵は部下を連れ何日も森の中を探し廻りますが見つかりません。ある日、森の中を探していたテルラムントは予言能力を秘めた神秘的な娘オルトルートに出会い、「エルザが王子を濠の中に突き落とし殺すのを見た」、「あなたが新しい領主になると神のお告げがあった」と聞かされます。彼女は森の中で住む没落貴族の娘で、ゲルマンの神を狂信する妖術使いです。彼女は、君主の妃の座を狙う野心から王子を白鳥に変えてしまったのです。

キリストの神を敬虔に信奉するエルザは、最愛の弟を亡くした挙句、弟殺しの疑いをかけられた悲嘆さを神に訴え、救いを求める日々を送っています。ある日、嘆きの声は塊となって轟音とともに空高く舞い上がり、エルザは深い眠りに陥りました。眠りから覚めたエルザの前に、戦いの姿の気品に溢れたナイトが現れ、消えます。その日から、エルザはこの騎士が苦悩を救ってくれると信じ、毎日、騎士を慕い、結婚したいと祈願します。

没落した貴族で森の中に住む娘オルトルートから「エルザは君主になりたいために弟を殺し、素性の知れぬ騎士と通じ、邪魔な者を殺す」との暗示にかけられたテルラムント伯爵は、エルザが怖くなり、婚約を解消して、不思議な力を秘めたオルトルートと結婚します。

ハンガリーがドイツの国境を脅かしています。挙兵のために訪れたドイツ国王はこの地方の内紛を心配しテルラムント伯爵に訊ねます。テルラムント伯爵は、「エルザは嫡子である幼い弟を殺し、見知らぬよそ者の騎士と通じて領主の座を狙っている、エルザを弟殺しの罪で裁判にかけたい」と訴え、エルザは裁判にかけられます。あまりにも清らかな乙女のエルザを見た国王は訴えを再考するように諭しますが、「証拠を列挙することは貴族の名誉に係わる、聖なる決闘で神の裁定を仰ぎたい」と申し出、神の審判を仰ぐ神聖な決闘となります。これは、オルトルートが狂信するゲルマン古来の神とエルザの信奉する新興のキリストの神との決闘なのです。エルザに変わって聖なる決闘に加勢する者は一人もいません。エルザは一心に騎士の現れるのを祈ります。川を白鳥に曳かれた小舟に乗って「幻の騎士」が現れ、エルザに代わって決闘に応じ、一撃でテルラムント伯爵を倒してしまいました。神の審判が下ったのでが、騎士はテルラムントの命を助け国外追放を告げます。

騎士は「私と結婚したいか」とエルザに尋ね、「私の氏、素性、身分を訊ねたり、疑念を起こさない事を誓うなら結婚しよう」と言います。清純な乙女エルザは夢のようです。騎士は、ゲルマンの神の邪悪な狂信者に落とし入れられたエルザを救うために、神の国から遣わされたのです。、キリストの神の救いを一途に信じ続けたエルザに、神は至福を与えたのです。

テルラムント伯爵はオルトルートの野心に気付き、呵責と恥辱をなじりますが、「勝負はこれからよ」と復讐を誓ったオルトルートは、「ゲルマンの神をないがしろにし、新興の神を信奉する輩に復讐する力を与えよ」と、ゲルマン古来の神に祈願し「騎士が氏・素性を話したら私達の勝ち」と後悔するテルラムント伯爵に告げます。二人はエルザに「騎士はいつかここを去る」、「身分や素性を明かさないのは魔術師だからだ」等、邪悪な言葉を浴びせ、エルザに不安がよぎります。二人は結婚式に臨み、国王は騎士に領主になることを薦めますが騎士は断ります。式が終わり二人だけの幸せな時を迎えました。エルザは、「愛し合うときだけでもいとしい人の名を呼びたい」、「名前が知れたら不幸になるなら助けたい」と訴え、至福が永久に続くのか不安になり、錯乱から、「名前を教えて」と、思わず禁断の言葉を叫んでしまいました。

エルザの疑念による約束の破棄により、騎士は神の世界に帰らなければならなくなりました。神は信ずる者にのみ至福を与え、些かの疑念も許しません。エルザや領地の人々との別れの時が来ました。騎士は素性を明かします。「私は神の国から来た。その国には神が与える万能の水を蓄える聖なる杯があり、その杯は騎士たちで守られている。私の父はその騎士たちの長、私はその騎士の一人、名はローエングリーン」。人々は神々しさに驚嘆し、別れを惜しみます。白鳥に曳かれた小舟が騎士を迎えに来ました。白鳥が付けている鎖を見たオルトルートは、白鳥が王子である事に気付き、「勝った、ゲルマンの神をないがしろにした復讐を知れ」と叫びます。その時、神の使いの鳩が天から舞い降りて白鳥に止まりました。呪詛からとかれた白鳥は王子になったのです。その瞬間、キリストの神の怒りに触れたオルトルートは悶絶して果てます。神が敬虔に信仰する人々へ与える最後の慈悲です。エルザは、犯した大罪と大切な人を失う悲嘆から絶命してします。

神はエルザを救う最後の慈悲として彼女に死を与え、ローエングリーンのいる神の国に召したのでしょう。

(白鳥城ノイシュバンシュタインを建てた神秘の若きドイツ国王ルードヴィヒ2世は、洞窟に舞台を作り「ローエングリーン」に陶酔していたのだそうです)

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