「私なりのオペラ名作選」そのストーリーと名曲
歌劇「トスカ」のストーリー (イタリア語)
作曲 ジャコモ・プッチーニ
初演 1900年ローマ・コスタンツィ劇場
時代・場所 1800年のローマ
主な登場人物
情熱的な歌姫トスカ、その恋人画家カヴァラドッシ、その友人政治犯アンジェロティ、トスカに関係を迫る警視総監スカルピア、その部下スポレッタ
その他
ローマの名所:聖アンジェロ城、ファルナーゼ宮、ヴァレル教会が舞台
第一幕 アンドレア・デッラ・ヴァレル教会の中
脱獄した政治犯アンジェロッテはアンドレア・デッラ・ヴァレル教会の礼拝堂に身を隠します。画家のマリオ・カヴァラドッシが教会にやってきて教会に飾る「青い瞳のマリア」の大作を描くための足場に昇り、マリアの中のモデル伯爵婦人とトスカの絵姿のメダルを見比べ、トスカへの想いのアリア「たえなる調和」を歌います。
妙なる調和(テノール:カヴァラドッシ)
「妙なる調和だ、恋人のトスカは黒髪で黒い瞳の情熱的な美人、見知らぬあなたは金髪の青い瞳の美しい人、芸術とは不思議なものだ、二つの美を一つにする、あなたを描いているときも、想うのはトスカだけ」。礼拝堂に隠れていた政治犯の友人が現れ、二人は再会を喜び、カヴァラドッシは助けることを約束をします。「マリオ」とトスカの声に政治犯は慌て姿を消します。嫉妬深く情熱的なトスカは「誰がいたのよ、衣擦れの音がしたわ、あの女でしょう」とつめよります、「誰もいないよ、夢でも見たのか」とカヴァラドッシは挨拶の接吻をしようとします「駄目よマリア様の前だわ」といってマリア像に花を供え、お祈りし、今夜の音楽会が終わったら別荘に行きましょうと「二人の愛の家へ」を歌います。カヴァラドッシは脱獄してきた友人のことが気がかりで気乗りしません。
二人の愛の家へ (ソプラノ:トスカ)
「私達の愛の巣のあの家に行きたくないの、あなたのそばで草の香りや、虫の愛のささやきの誘惑で心が溶けてしまうの、月の光、星ふる夜空が甘い官能の雨を降らせて、官能の嵐がトスカを燃えさせるの」。「ああ、僕は君の官能の嵐の罠にかかってしまう」、「官能の嵐がトスカを燃えさせるわ」、「行くよ、僕の恋人」、「私の愛しい人」二人は官能的な愛の二重唱を歌い。「仕事に戻らせてくれ」、「もう追い返すの」。カヴァラドッシは製作中の絵の覆いを取ります。マリアの絵姿を見たトスカは「アッタヴァンティ」と伯爵婦人の名を叫び嫉妬します。カヴァラドッシは「君の黒い瞳と比べたら」と愛情をこめて歌い、機嫌を直したトスカは「瞳は黒にしてね」と言い帰っていきます。誰もいなくなったことを確かめアンジェロッテが姿を現わします。カヴァラドッシは「僕の屋敷の古井戸に身を隠すように」と言い、アンジェロッテは妹が置いていった女装の衣装を持ち、カヴァラドッシの案内でここを去ります。「ナポレオンが負けた、万歳」といって教会守や聖歌隊の子供が入ってきました。そこへ脱獄犯を追ってきた精悍な風貌の警視総監スカルピアがスポレッタなど数人の部下を連れて現れ、礼拝堂を怪しみ、調べさせ、婦人用の扇子などの証拠品を見つけます。教会守は「カヴァラドッシが食べなかったバスケットが空になっている」と証言し、カヴァラドッシがアンジェロティを助けたと断定します。そこへ言伝を言い忘れたトスカが戻ってきました。スカルピアはトスカを見て自分のものにしたい衝動にかられ、落ちていた扇子をトスカに見せます。扇子にはアッタヴァンティ家の紋章が入っていました。激しく嫉妬したトスカは泣きながら出て行きます。スカルピアは部下に尾行を命じ、凄みのある「行けとトスカ」を歌います。
行けトスカ(バリトン:スカルピア)
「行けとトスカ、お前には俺が宿った、行けトスカ、嫉妬に狂ったお前に鷹を放ったのはこのスカルピオだ、わしの欲望は反逆者の首よりもお前だ、お前はわしの腕の中で官能の喜びに溺れ、もう一人は死刑台だ」。やがて聖職者や枢機卿がやってきて戦勝を祝う大合唱で第1幕が終わります。
第二幕 ファルネーゼ宮殿のスカルピオの部屋
トスカは戦勝祝の音楽会で歌う事になっています。スカルピオは「歌が終わったらここにトスカを呼べ」と部下に命じ、トスカを尾行した部下から「トスカはカヴァラドッシの家に行った。アンジェロッティは見つからなかったが、カヴァラドッシを捕らえてきた」。との報告を聞いています。階下ではトスカの歌う声が聞こえます。スカルピオはガヴァラドッシを連れてこさせ詰問しますが口を割らないため拷問にかけ、苦しむ声をトスカに聞かせる策略に出ます。独唱が終わったトスカがやってきました。隣室での拷問の悲鳴に耐えかねたトスカは「犯人は古井戸にいる」と話してしまいました。カヴァラドッシとトスカを同席させた上で「古井戸を探せ」と命じます。そのとき「ナポレオンが勝ち、ローマが負けた」との知らせにカヴァラドッシは「勝った」と叫び、反逆者として連れ去られます。残ったトスカは彼の助命を嘆願し、金で解決しようと「おいくら」、「世間では金で動く男だと」で始まる白熱シーンが始まります。
「おいくら」、「世間では金で動く男だと」(トスカ、スカルピア)
「おいくら、身代金は」、「世間では私を金で動く男だと云っているが、美しい女性には売りませんよ、別の報酬がほしい、今まで見たことのない美人を見たとき私のものにしてやろう誓った、必ず私の思いどうりにする」、「身投してやるわ」、「マリオが人質だ」、「何と卑怯な恐ろしい取引なの、ああ神様、触らないで、卑怯よ」、「怒りの悶えと官能の悶えは同じ、そのような君がほしいのだ」、「助けて、神様」、「囚人を護送する小太鼓の音だ、死刑台が作られている、君がそんな気なら、マリオの命は後一時間だ」トスカは悲嘆と絶望に心を失い、神をうらむ有名なアリア「歌に生き、恋に生き」を歌います。
歌に生き、恋に生き (ソプラノ:トスカのアリア)
激しい気性と強い信仰心を持つ歌姫、フロリア・トスカの恋人画家マリオ・カヴァラドッシは政治犯の友人をかくまった罪でサンタ・アンジェロ城の牢獄に投獄され、まもなく死刑にされようとしています。執行の全権を持つ警察総監のスカリピアはトスカを自分のものにすべく「マリオの死か、トスカの貞節か、どちらを取るか」とトスカに迫ります。恐怖と悲嘆に心を失った気丈なトスカは有名なアリア「歌に生き、恋に生き」を歌い神をうらみます。「私は歌に、恋に、懸命に生きてきました。悪い事は何一つしていません。深い信仰心で神様にお祈りしています。いつも祭壇にお花を供えています。私の宝石の数々もマリアさまに供えています。なのに、なぜ、なぜ、主はこのような報いをなさいます」。「君はマリオの命を要求するが、わしは君との一瞬を要求しているのだ」トスカは取引に応じます。スカリピアは部下のスポレッタを呼び何か耳打ちします。「あれはわしの忠実な部下だ、銃殺のとき空砲にしておく、死んだ振りをして部下がいなくなったら逃げるように」と通行証を書きます。トスカは脇にあったナイフをそっと後ろ手に隠します。書き終わったスカルピオはトスカを抱こうと近寄ってきました。トスカはスカルピオのわき腹にナイフを突き刺しました。「助けてくれ、死にそうだ」苦しむスカルピオに向かって「これが私の接吻よ」と吐き捨てます。そして血のついた手を洗い、身を正して、スカルピオの手から通行書を奪い取り、「どれほどローマ中がこの男におびえたことか」とつぶやきながら彼の亡骸の胸に十字架を置き、部屋を暗くして静かにこの場を立ち去ります。ここで第2幕が終わります。
第三幕 聖アンジェロ城の屋上
夜明け前の星が輝き、遠く羊の群れの鈴の音と羊飼いの歌が聞こえます。ガヴァラドッシが護送兵に連れられて来ました。護送兵はカヴァラドッシを看守に引渡し帰って行きます。ガヴァラドッシは看守に指輪を渡し「最後に手紙を書かせてほしい」と看守に頼みます。看守は承諾し立ち去ります。机に座りますが絶望に打ちひしがれたカヴァラドッシは書けません。ここで悲痛なトスカへの深い想いと過ぎた日の幸せを偲ぶ有名なアリア「星は光ぬ」を歌います。
星は光ぬ(カヴァラドッシ)
「星は輝き、大地は香しかった、砂地に軽い足音がして彼女がやってきた。甘い香りが漂い、私の腕に崩れ、やさしい抱擁、接吻、はやる気持ちを押さえる私の前で、着ている物を脱ぎ美しい姿を見せた。私の愛の夢は永遠に消えて去って、絶望の中で死んで行く、ああ、死にたくない」
スポレッタがトスカを案内してきました。看守に見張りを命じて立ち去ります。トスカは泣き伏しているカヴァラドッシに駆け寄り抱き起こして通行書を見せ、「これで自由だわ」とスカリピアのマリオの命かトスカの一瞬の愛かの恐ろしい要求に、承諾した振りをして書かせ、刺し殺したのとスカルピアとの一部始終を話します。カヴァラドッシはトスカの手を取り「このやさしい手」を歌い、二人は感激の二重唱を歌います。
このやさしい手 (トスカとカヴァラドッシ)
「このやさしい手は、子供達をなでたり、バラを摘んだり、不幸や災難いにお祈りしたりしたやさしい手なのに、愛のために正義の武器を持ち、ああ清らかなやさしい手よ」、「聞いて、時は迫ってるの、宝石やお金を集め馬車も用意したわ、あなたは空砲で銃殺されるの、そして倒れるの、兵士達が行ってしまったら私達は助かるの、船に乗って海に出るの」、「私の喜びも希望も君がいるから生まれる、熱が炎から生まれるように、死ぬのは辛かった、君は僕の羅針盤だ」、「あなたを救ったのは愛の力、地上では道案内、海では舵取りになり世界を再び美しくしてくれるでしょう」、興奮からさめたトスカは「まだこないわ、撃たれたらうまく死んだ振りをしてね」、「うまくやるよ」。処刑の鐘が鳴りましたトスカは物陰に隠れ、そっと見ています。刑の執行人が現れ、カヴァラドッシに銃口が向けられ、引き金が引かれました。スポレッタはとどめを射そうとする執行人を「必要ない」と制します。執行人達はそのまま去って行きます。誰もいなくなりました。「うまい演技だわ」トスカは喜び勇んで倒れたカヴァラドッシに「すばらしかったわ、早く起きて、起きてマリオ」と近寄りました。「死んでいる、ああ死んでる、どうして、どうしてこんなことになるの」空砲ではなかったのです。「警視総監が刺し殺された、やったのはトスカだ」の声が近づき、追手がトスカに迫ります。トスカは屋上の城壁に駆け上り「スカルピア、地獄で」と叫んで飛び降ります。衛兵達が驚くなか、劇的な結末の歌劇「トスカ」が終わります。