「私なりのオペラ名作選」そのストーリーと名曲(4)
喜歌劇「メリー・ウィドー」のストーリー
台本 ドイツ語
作曲 フランツ・レハール
初演 1905年アン・デヴァ・ウィーン劇場
時代場所 20世紀初頭のパリ
登場人物
(s)銀行家グラヴァリの未亡人ハンナ・グラヴァリ夫人、(t)ハンナの昔の恋人パリ大使書記官ダニロ・ダニロヴィッチ伯爵、(br)老齢のパリ大使ツェータ男爵(s)その若い妻ヴァランシェンヌ(t)パリの伊達男カミーユ・ロジヨン、同カスカーダ、同ブリオシュ、大使館職員ニェグシ、外国高官及び夫人達、キャバレー・マキシムのダンサー
物語
第1幕 ポンテヴェドロ王国パリ大使館の広間
小さな国ポンテヴェドロ王国のパリ大使ツェータ男爵主催の国王誕生日祝賀パーティーが大使館で開かれています。招待を受けた高官の夫人達はパリの伊達男との火遊びに夢中です。大使の貞淑な若妻ヴァランシェンヌもパリの貴公子カミーユ・ロジヨンに「云ってはいけないと言うからあなたの扇子に”愛してる”と書いた」と口説かれています。
私は貞淑な人妻(二重唱)
「私は貞淑な人妻、不倫はいけないわ。火遊びは止めましょう、燃え上がると炎となって身を焦がしてしまうわ」「あなたは貞淑な人妻だと言う事は分っています。危険な事も承知しています。でも私は諦められない」二人は手を取り合って出て行きます。男爵が来て大使館職員のニェグシに「祖国の一大事だ、書記官のダニロ伯爵を探して連れて来い」と命じます。「居所は分っています。キャバレー・マキシムの常連ですから」。客が玄関の方に行きます「大金持ちの陽気な未亡人(メリー・ウィドー)の到着です」、「2000万フランだ」と男爵。「あなた輝く星の中の星」「目がくらむ美しさ」パリの伊達男達に囲まれた主役メリー・ウィドーのハンナが登場します。
私はパリのお世辞に慣れていませんの(s)
「どうぞお静かになさって、私はポンテヴェドロの女、まだパリ流のお世辞に慣れていませんのでどうしてよいか判りませんの。なぜご親切になさるの。お金が目当てなの」、「金目当てだなんてとんでもない」。「未亡人には魅力的と云いますが、お金があるとそれが倍増しますものね」「本当にお慕いしてるんです」、「人の価値はお金と言いますものね」。美しいメリー・ウィドーのハンナは勝気な皮肉屋さんです。「私達と踊っていただけますか」「ええよろこんで」。男達は彼女とのダンスの順番をくじで決めています。男爵がハンナに「光栄です」と挨拶をし、それに応えて「明日私の家でパリにいる国の出身者の方をご招待してポンテヴェドロ風の祝賀パーティーを開きますの、皆様お越しください」。一同大喜びしてハンナをパーティー会場に連れて行きます。ヴァランシェンヌはカミーユの気持ちを探ろうと「彼女に結婚を申し込んだら」と囁き「その気はありません」の返事。二人は嬉しそうに出て行きます。「誰もいない」呼び出されたもう一人の主役ダニロ伯爵が酔っ払って入って来ます。
祖国よ(t)
「祖国よ、昼間は外交官として忙しい仕事を十分こなしている。夜はプライベートの時間、祖国を忘れるときだ。マキシムに行ってシャンペンを飲み、カンカンを踊る。可愛い女の子達と愛称を呼び合って楽しく遊ぶと気が休まるのだ。ロロ、ジュジュ、クロクロ、フルフル、マルゴ」と歌い。ソファーに寝てしまいます。大使夫人のヴァランシェンヌと火遊び相手カミーユ・ロジョンが「(愛してると書かれた)扇子を無くした」と騒ぎながら入ってきて探しますが見つからず出て行きます。男達から逃げ出したハンナが入って来ました。鼾をかいて寝ている人物が思いかけずも昔の恋人ダニロだったのです。彼女は「どうして」と云って、ストールで思いっきりダニロを引っ叩きます。昔の恋人を恨みに思う勝気な女性の愛情表現です。ダニロの叔父が平民のハンナとの結婚に反対し、ハンナは銀行家と結婚したのですが今もダニロが好きなのです。またダニロもハンナが忘れられず、キャバレー・マキシムで酒浸りの毎日です。ダニロは叩かれた弾みでソファーから転がり落ちて目がさめ、ハンナとの再会に驚き、「パリに住んでいるのか」と訊ねます。ハンナは皮肉を込めて「そう、パリで楽しく過ごし、飽きたらまた結婚するの。今なら叔父様も反対しないでしょうにね」、「財産目当てでか」二人は素直になれません。「そう、愛してると言う男は皆私の財産が目当てなの」「俺は絶対愛してると言わない」ダニロはハンナと結婚したいのですが金持ちのハンナでは男が許しません。ダニロの本心が知りたいハンナは「宣戦布告ね」と勝気振りを見せ「応戦だ」と二人は出て行きます。愛の駆け引き戦争が始まりです。誰もいない広間に「お願い判って、私は人妻よ」とヴァランシェンヌとカミーユが入ってきます。「もし僕の妻だったら」とカミーユ。外交官夫人の多忙な日々に家庭生活の幸せが見出せないヴァランシェンヌは「どんなに素敵かしら」と
夕日の迫る小さな部屋で(二重唱)
「夕日の迫る頃、二人っきりで小さな部屋で、もしそれが出来たら、あなたに寄り添って、甘い静かな家庭はどんなに幸せかしら。二人だけの世界」二人は接吻を交わし部屋を出ます。その光景を職員のニェグシが見てしまいました。ヴァランシェンヌが無くした扇子を持って大使とフランス高官が入ってきて「この扇子は家内の物に違いない、ついに浮気の証拠をつかんだ。愛してると書いてある」。居合せたヴァランシェンヌは無くした扇子に驚きます。大使は高官の家庭不和を心配して「これは家内の扇子です」とヴァランシェンヌに渡しますが彼女は「違うわ」と返します「お前のものにしないと彼は奥方を殺しかねない」、「それは私のものです」「誰が愛してると書いたのですか」と高官「私の主人ですの」高官は納得し出て行きます。「彼の夫人にそっと返そう」大使は妻の扇子である事がわからないくらい多忙なのです。そこに酔いが冷めたダニロが来ました「よく来てくれた。2000万フランの大仕事をやってくれ」、ダニロは2000万フランと聞き驚きます。二人の過去を知る男爵は「ハンナ・グラヴァリ夫人がパリの男と結婚したら莫大な相続財産が国外に流出してしまう。国の一大事だ。国のためにグラヴァリ夫人を口説き結婚しろ」「それは出来ない。だが彼女に言い寄る男達は全部追っ払いましょう」ハンナを他人に取られる事は許せません。ハンナが男達に囲まれて入って来ました。「ダンスの時間です。12時が過ぎた。今からは女性の方がダンスの相手を選ぶ番なのです。相手を選んでください」。「決められないわ」、「それは私達を侮辱するものです。男女同権と女性はやかましく云うのにあなたは選挙権を行使しないのですか。投票する義務があります」と男達、ハンナ未亡人は困っています。
私は政治が嫌い(s)
「私は政治が嫌いですの。男は心を堕落させるし、女は魅力を無くしますもの。でも選挙になれば投票して選ぶことが義務ですものね」。大勢の男達に言い寄られて困っているところへダニロが「援軍です」「さあ、好みのパートナーをお選びください」と夫人達を連れて入ってきます。言い寄った男性達はがっかりです。ハンナは「女性が選ぶ番だったのね」とダニロの助を喜びます。
ワルツの調べに乗って(T)
「さあ、ワルツの調べに乗ってステップを踏み踊りましょう。ご婦人方、好みのパートナーをお選びください。春には花があざやかに咲くように甘いワルツの調べが流れ、ヴァイオリンの音に誘われて楽しく踊りましょう」。夫人達の選からうまく逃れたパリの伊達男のカスカーダとブリオシュがハンナに言い寄っています。そこへ男爵の妻ヴァランシェンヌがカミーユを推薦します
この方はポルカが上手(s)
「この方はポルカが上手、マズルカも上手ですのよ、私試しましたの、右回り左回りのステップは申し分無く、ワルツも完璧、私この方と踊りましたの、だから推薦しますわ」。「では、選びますわ、私に興味がない振りをしているこの方」と言ってハンナはダニロを選びますがダニロは断ってしまいます。むっとして「権利を放棄なさるの」、「僕に踊る権利があるのですね。ではこの権利を1万フランで譲ります。誰か買いませんか」、「1万フランも」とカスカーダとブリオシュは諦めて出て行きます。「うまく追っ払った」とダニロ。このときカミーユが「その挑戦を受けよう」と申し出ますがヴァランシェンヌが嫉妬しカミーユを連れて出て行きます。「あなたに言い寄る者はもういない。さあ踊ろう」ハンナは「外交官はずるいのね。いやよ」とすねます。「あなたは僕を選んだ。私はあなたと踊る権利を持っている」。二人だけの広間に甘いワルツの調べがムードよく流れます。ダニロはおどけた調子でワルツのステップを踏みながらハンナの周りを回りハンナを強引に抱いてワルツを踊ります。「お上手ね」ハンナも次第に楽しく踊りだし幕が下ります。
第2幕 パリのハンナ・グラヴァリ邸
国王祝賀パーティーに集まった人々にハンナが「ようこそ。祝賀パーティーを故郷風にしました皆さん国にいるような気持ちになって国王を讃え楽しみましょう」と挨拶しパーティーが始まりました。民族衣装を着た人達が民族ダンスを踊り歌います。ハンナは「故郷を忍び私達の一番好きなヴィリアの歌を歌いましょう」と歌い出します。
妖精ヴィリアの歌 (s)
「森で狩人の若者が岩の上に腰をかけている乙女を見た。若者は息が止まる程の衝撃を受け彼女を見つめた。そして深いため息をついた。おおヴィリア、お願いだ、私をお前の恋人にしておくれ。恋に落ちた若者は哀願した。森の精ヴィリアは手を差し伸べ若者を岩屋に引き入れた。そして、ヴィリアは気が遠くなるような激しい接吻をして消えた。おおヴィリア、もう一度出てきておくれ。お願いだ、私をお前の恋人にしておくれ」ハンナに続き全員が合唱し、また民族ダンスを踊り歌います。民族ダンスが終わり一同がディナー会場に消えます。男爵が来てハンナに「まるで国にいるようです。感激です」、「別にパリ風のも用意しました。奥様も余興で出られますが何をするかは秘密ですの。ダニロ伯爵のためにマキシムの踊り子達も呼びましたわ」男爵は喜び「本物ですか」、ハンナはカンカン踊りのように足を高く上げ「正真正銘の踊り子達です。ディナーの後ですけど」と言って広間を出ます。「伯爵に気があるかも知れんぞ」。そこへダニロが来ました男爵は「ロジョン氏が一番危険な結婚相手ですぞ」「あのカミーユが」「弱みを見つけて妨害しなければ」「弱みがあります、彼は人妻に恋をしています」と職員のニェグシが云いにくそうに口を挟み下がります。それが妻である事を知らない男爵は「ロジヨンの相手を探し出してハンナが相手にしないようにしてくれ」とダニロに例の扇子を渡し出て行きます。「愛してる、この筆跡はカミーユだ」とダニロ。ハンナが広間に来て「来てくださったのね、避けておられるから、来ないかと思った」「戦略ですよ、騎兵隊のほんの小競り合いです」「戦争でしたわね、でも強い騎兵隊は攻撃するものでしょ」ハンナの作戦にはまったダニロは「勿論攻撃します。強い一発で」、喜んだハンナは「どうぞ攻撃なさって」「いやできない」「お馬鹿さんね」「なんですって」と怒るダニロ。そこでハンナは皮肉をこめて思わせぶりに「馬鹿な騎兵さん」と歌い出します
お馬鹿な騎兵さん(S)
「さあ、娘さん素敵な騎兵さん達をよく見るのよ、誰がお婿さんになってくれるか見逃さないように、そして気があることを目で知らせるの、私の気持ちが判らないの、お馬鹿な騎兵さん、そのまま行くがいいさ、ハイドウドウ。お馬鹿な騎兵さんは踊るように戻ってきて目で訴えたが娘はもう見向もしない、お馬鹿な騎兵さん」ダニロも続きます「戻った騎兵は娘さんを見つめて微笑みました。私を選んだ娘さん、お前がいやなら仕方がない、私はもう2度と来ませんよ」。「馬鹿な騎兵隊さん、私のことが判らないの」と、すねるハンナに「賢い騎兵は逃げるが勝ち」とダニロはその場を逃げてしまいます。「馬鹿な騎兵、そのまま行くがいいわ」と怒ってハンナも部屋を出て行きます。広間に戻ったダニロは扇子の持ち主がハンナでないことを願いつつ婦人達に誘いをかけて持ち主探に賢明ですが、判るのは婦人達の浮気相手ばかりです。そこに婦人達の浮気相手カスカーダとブリオシュが来ました。彼らはハンナに言い寄る強敵ですが、ダニロは二人に浮気をハンナに話す、又ご亭主が知ったら決闘になると脅します。そこに当の浮気夫人の亭主たちと大使が入ってきました「もし奥様が浮気をしたら」、「相手を殺してやるが内に限っては心配ない」カスカーダとブリオシュは青くなります。大使夫人の浮気相手がカミーユと知っているのは職員のニェグシだけです。全員が
女の扱いは難しい、ああ、女、女、女(重唱)
「女の扱いは難しい、貞操を守ったと証明できない、こちらはお世辞で褒め上げて、そちらは威張っていじめ、3人目はやさしく微笑み、、あれこれと、4人目は口喧嘩好きに5人目は踊り好き。女のねだり声に騙されて、心も体もわからない、女の研究は難しい。金、青、赤、黒髪だろうが皆同じ、ああ、
女、女、女」と重唱し、部屋を出て行きます。扇子の持ち主探しで残ったのはハンナと貞淑な大使夫人だけです。もしかしたら持ち主はハンナだろうかとカミーユが書い「愛してる」の文字を見つめて考え込んでいます。ハンナが神妙な面持ちで部屋に入ってきます。「馬鹿な騎士さん」のダニロの言葉が気になり彼を慕う気持ちは高まるばかりです。自分の思いを打ち明けダニロの本心を聞こうと「結婚したいと思うの」「なに、結婚。誰とでもすればいい、結婚式では靴底が破れるほど踊ってやる」と怒鳴ります「なぜ叫ぶの、妬いてるのね」「悔やんでいるさ、だが心の中は笑ってる、それが僕のやり方だ」と扇子を渡します。ダニロはなにを言ってるのか分らない興奮ぶりです。愛してると書かれた扇子を見たハンナは「口で云えないから書いたんだわ」と喜び、思わず通りかかったニェグシの押すワゴンに扇子を置きます。嬉しそうにハンナは「パリにいる人と結婚するの」「相手はダニロ」と云いかけて「ダ・・、ローシュ」「変な名前だ」「結婚する前にパリを知りたいの。案内して」とせがみますが、結婚相手がカミーユだと思いこんで頭にきているダニロは嫌味のふざけで話しがかみ合いません。二人は消沈して部屋を出ようとします。そのときスローテンポの「甘いワルツの調べ」の曲が流れてきました。静けさが漂い昔の感情がよみがえった二人は静かに近寄ります。ダニロは真剣な眼差しで「あなたはいつも大人物に誘わてれる。伯爵なんか目もくれない」、ハンナはそれをさえぎり、お互い見詰め合い寄り添ってゆっくりとワルツのステップを踏みながら部屋を出ます。入れ違いにヴァランシェンヌとカミーユが入って来てワゴンに乗った扇子を見つけ安心します「思い出になにか下さい」ヴァランシェンヌは扇子に貞淑な人妻と書いて「あなたは未亡人と結婚して」と渡します。カミーユは
5月の光の中でバラの蕾が芽生え(t)
「5月の光の中でバラの蕾が芽生えるように幸せを追った。今はそれを手ばなすのか。5月の光が消え蕾が枯れてしまう。愛の力であなたを奪って見せる」。「最後の接吻を」「あのあずまやなら誰にも見られない、二人きりになろう」「私はもう拒めない」二人はあずまやに入っていきます。ニェグシが見ていました。大使が来てニェグシにあずまやの鍵をかけるよう命ます。「ご婦人が入っています」「ダニロとか」「いえカミーユ・ロジヨン氏です」「ロジヨンか、しめた」大使は「ダニロ君、カミーユの弱点を見つけましたぞ」「相手は誰ですか」「あずまやの中だ鍵穴から覗こう」と覗く「ああ、ロジヨンが妻に言い寄っている」大使は驚き「出て来い」とわめいています。ニェグシはあずまやの裏口からヴァランシェンヌを逃がします。「何ですの騒々しい」出てきたのはハンナとカミーユでした。「ハンナとカミーユが」呆然とたダニロを見て「すごい効果だわ」大使は「妻のはずだが」「私はここよ」とヴァランシェンヌ。ハンナは「いよいよ仕上げのとき」とつぶやき「皆さんお知らせがあります。私はロジヨン氏と婚約しました」あまりの発言に一同騒然となります。驚いたカミーユは「私は承知してません」と慌てます「あなたは大使夫人に恥を欠かせるの」と囁きます。大使が「財産が国外に流出する婚約は私も伯爵も反対です」「反対する理由がない、おめでとう。恋多くとも婚約はほどほどに」「結婚はなどもってのほか」と云って付け加えます
外交官として云うならば(t)
「結婚は個人の問題だが外交官とて言わしてもらうなら、二国同盟は永遠のもの、だが気がつくと3国同盟になっている。理由は明白。ご婦人方ではないですが、自由・開放だから」。ハンナを始め婦人たちはムッとして反論します
自由はパリ風よ(s)
「結婚は自由よ。自由がパリ風なの。それぞれがパリ風に愛し合う。結婚生活も自由に振舞えたら楽しいわ。恋の駆け引き、離婚もパリ風、本当にそういう生き方が楽しいわ」。ダニロは「はらわたが煮え繰り返る。もう我慢が出来ない。憤ってはいけない。冷静に」真剣な面持ちで「マダム、結婚にあたって、お話があります」。「なにをおっしゃるのかしら、どきどきするは」とハンナ。ダニロは王子王女に例えて
むかし愛し合う王子と王女がいた(t)
「むかし愛し合う王子と王女がいました。王子は心の内を打ち明けませんでした。それには訳があったのです。王女はなにも言わない王子に腹を立て残酷にも王子を試そうと他の男の求婚を受けました。深く傷ついた王子は」ダニロは悲痛な叫びで「夢にも思わなかった。あなたは間違ってる。あなたは他の女と同じだ」「私ではない王子がそう云ったのだ」「王子は言った。そんなことで私が傷つくとでも、あの男があなたにお似合いだと云って去った」。寂びそうに「私もそうする。さようなら」。「どこに行くの」「いつも心を慰めてくれる所、マキシムさ。楽しい気持ちでロロ、ドド、ジュジュ、フルフル、憂さを晴らす憩いの一時」と出て行きます。「あの方は私を愛してる」と喜び「自由な生き方そういう生き方が本当に楽しい」と楽しそうにステップを踏みながらハンナが歌い合唱する中を第2幕が下ります。
第3幕 キャバレー・マキシムを模したハンナ邸の部屋
ハンナ邸のキャバレー・マキシムショーが始まります。「奥様が踊り子で出ますよ」とニェグシ、嬉しそうに驚く大使。ヴァランシェンヌを先頭に下着姿の婦人たちが「私達はパリの踊り子ロロ、ドド、ジュジュ、フルフル」と腰を振り振りパリの踊り子に扮して登場しました。一同は大歓声で迎えます。
夕方になると大通を(s)
「夕方になると大通りに繰り出し、金色のブーツ艶っぽい帽子で愛嬌タップあちこち歩く、私達は美しいパリの踊り子、夕方になると蜘蛛が蝶々を捕らえるように男をつかむ、じたばたしてももう遅い、私達は色気たっぷり歩くの、そうよ私達はパリの踊り子」。大騒ぎの中ダニロが帰ってきます。ハンナ邸がキャバレー・マキシムになっているのに驚き聞きます。「奥様があなたのために作ったのです」。そのとき国許から暗号電報が入りました。ダニロが解読します「ハンナの2000万フランが国外に流出したら国は破産する」一同は騒ぎ出します。大使は「愛国心に訴えハンナを国の男と結婚するよう説得してくれ」とダニロに公務命令です。国の存亡の重責を負ったダニロは外交官としてハンナの婚約解消を説得に行きます。外交官に戻ったダニロは「奥様、大事な話があります。ロシヨン氏との結婚を禁じます」「なぜ」、「あなたの2000万フランが国外に出てはならないからです」、「分りました。ロシヨン氏とは結婚しません」、「でも一緒にあずまやに」、「あずまやにいたのは他の夫人です。その方の窮地を救うために身代わりになっただけです」。ダニロは歓喜です。「今になって打ち分けるなんて。僕は真っ青だったんだゾ」、「なぜ」とハンナ、ダニロは訳を言いません。「あなたと言う人は」とがっかりするハンナの手を取って真剣に訴えます。それに応えてハンナも歌います。
この手のぬくもりが(t)
「何を言わなくても”私を愛して”とヴァイオリンは囁く、足音が語りかける”私を愛して”と、この手のぬくもりが伝えている君は僕を愛していると」。(s)「ワルツのスッテップに気持ちが高ぶり、心の中で”私の人になって”と叫んでいる。何も言わない彼だけど、心の中は”君を好きだ、愛してると”とこの手のぬくもりが」。(t、s)「はっきり伝える。これは本当のことなんだ」。
ハンナは「森の精ヴィリア」のように激しく接吻して走り去ります。幸福感に浸るダニロの回りに人達が集まり「どうなったか」、「ハンナは結婚しません」、一同は安堵します。そこへあずまやに扇子が落ちていたとニェグシが入ってきます「私の扇子だわ」。大使は扇子を見て「妻の筆跡だ。やはり妻だったのだ。離婚成立、私は独身になりました国家のためあなたに結婚を申しこみます」と大使。ハンナは「光栄ですが国家のためにはなりません。遺言には再婚で遺産は消滅するとあります」。がっかりした大使は申し込みを取り消します。「ハンナ、お前は無一文になるのか」とダニル。「そう無一文よ」、「お前を愛してる」、「とうとう云ったわ」二人はしっかり抱擁します。「無一文と結婚するのか」、「いいえ私は無一文ですが、遺言では再婚の夫が遺産を受け継ぐとあります」。「憎い奴め」と囁き、「金持ちでもかまわない結婚しよう」とダニロがハンナに結婚を申し込みます。ヴァランシェンヌは大使に「私の文字を読んで」。扇子には貞淑な人妻と書いてあります。大使はヴァランシェンヌに詫び、一同は杯を揚げて「女の研究は難しい」を合唱し、華やかなショーが開演します。マキシムのショーダンサー達が入場しロートレックの世界の強烈なカンカン踊りが始まり、全員が「パリの踊り子」を合唱する中、幕が下ります。