「私なりのオペラ名作選」そのストーリーと名曲

 

             歌劇「道化師」のストーリー

 

作曲    レオンカヴァッロ

初演    1892年ミラノ・ダル・ヴェルメ劇場

時代    1860年マリア昇天祭(8月15日)

場所    カラブリア地方モンタルト村(イタリア半島の南端、つま先辺り)

登場人物

座長カニオ(t)、その妻ネッダ(s)、役者トニオ(br)、役者ペッペ(t)、村の若者シルヴィオ(br)

物語

前奏曲か終わり幕の間からピエロの化粧をしたトニオが出てきて「紳士淑女の皆様お許し下さい。私一人で登場しました事」と歌います。

(br)紳士淑女の皆様、お許し下さい

「紳士淑女の皆様。私一人で登場し口上を述べます事をお許し下さい。古い伝統を復活させたいと、昔ながらの仮面をつけ、手前どもが流す涙で胸の痛みや苦しみをご覧になって下さいと申し上げるのではありません。作者は役者のためにある実話を思いだし涙にむせびながら書きました。ある恋が憎しみを生み、苦しみ、悶え、怒り、皮肉な笑いと悲しい結末、私どもしがない道化役者ですが、皆様と同じ人間でありまして心の中をどうぞご覧下され」と歌って幕が開きます。

第1幕 マリア祭が行われているイタリア半島南端つま先あたりの村

「ほら、道化師パリアッチョが帰ってきた、ようこそパリアッチョ」と村人達が道化芝居の一行を出迎えています。村の通りを荷馬車と衣装を着けた役者の一行が入ってきす。初老の座長カニオと若い妻ネッダ、笑いのピエロ扮装をしたトニオの乗った荷馬車のホロが開き座長のカニオが「皆様方お耳を御貸し下さい」、「座長様だ」、「今夜23時からすばらしい舞台をお見せします。けちな野郎どもですがパリアッチョが心を乱し、どんな手段で罠をかけ復讐を果たすかトニオがどんな陰謀を仕組みますか、拍手喝さいを賜りたく是非見に来てください」と村人達に呼びかけています。村人はカニオに「飲みに行かないか」と誘います。カニオはトニオを誘いますが、ロバの手入れを理由に断ります。「一人残ってネッダを口説こうってんだ」と云う村人に、「そう思うか」とカニオの顔色が変り「そんな冗談は俺に言わないほうがいい、舞台では、女房が色男と一緒にいるところを見つけ、おどけた説得をして棒で殴られ、見物人は笑い転げて拍手喝さい。だがネッダが本気でそんなことをしたら、唯ではおかぬ」「そんな事を本気で思っているのか」「思ってもみない、俺はネッダを熱愛している。」と云って飲みに行きます。マリアの昇天祭で教会に行く村人の一行が通りすぎ、一人になったネッダは村の青年シルヴィオとの仲を感づかれたのかと不安になります。あたりは日の光が輝き、小鳥のさえずりが聞こえます。気を取り直したネッダは「大空を晴れやかに」と歌います。

(s)大空を晴れやかに(鳥の歌)

「あの人の異常な目付き、秘密を感づいているのかしら、恐ろしい。余計な心配よ、私は女盛り、狂おしい欲情、どうなってもいいの」と歌い大地へ仰向けに寝そべって「美しい8月の太陽、小鳥達は大空を晴れやかに飛びさえずっている、何を求め合っているのだろう。子供の頃占いをしていたお母さんはこんなふうに歌ってくれた、小鳥たちは大空に放たれた矢のように雲があろうと熱い陽射しがあろうと、だれはばかることなく広い大空に夢を求めて自由に飛んで行く、嵐も稲妻もさまたげる事は出来ない、行く先は夢の国、神秘な力にしたがって飛んで行く」。そこへ忍び寄ったトニオは

(br)俺は醜い男だが

「俺は醜い男だ、笑いと恐怖しか感じさせないこともよく知っているが俺の心にだって愛のときめきもある。あんたが見下げた顔で通りすぎる時の俺の苦しみが分るまい。今こそ俺の胸の内を云わせてくれ」と訴え力ずくでネッダに接吻しようとします。怒ったネッダは鞭で叩きながら「そんなことは今夜の芝居のなかで云いな愚か者、気味が悪い、マムシ」と罵声を浴びせます。からかわれ侮辱されたトニオは「この報いは必ず受けるぞ」と捨て台詞を残して去ります。そこにシルヴィオが現れ二人は激しく抱擁し、シルヴィオは

(t)「僕の運命を決めさせてくれ。祭りが終わり明日は君が去ってしまう。僕はどうなる、僕は絶えられない。さすらいの人生や仕事がいやだと言ったことが本当なら僕と一緒に逃げてくれ」とネッダに迫ります。現場を見たトニオは「ふしだらな女、今に見てろ」と云ってカニオに知らせに行きます。躊躇するネッダに「カニオを愛したことがないと云った狂おしい抱擁は何だったのか、遊びか、俺は愛している」ネッダはうれしく「私の全てはあなたのもの、あなたの好きなように、あなたを離さない」、「全てを忘れて」と二人は合唱し激しく愛し合います。トニオに案内されたカニオがものすごい形相で来ます。「逃げて」とネッダ。逆上したカニオは青年を追い駆けますが逃げられてしまいます。カニオは「恥知らず、相手の名を云え」、「殺されても云わない」、激昂したカニオはネッダを殴打しようとしますが「芝居が始まる、ここは我慢して」と役者達に止められてしまいます。拾い育て溺愛する若い女房を寝取られた現実と道化芝居のあらすじが同じになってしまった初老の座長カニオが鏡に向かって白塗りの悲しみのピエロ化粧をしながらその惨めさと口惜しさを歌う名曲。

(t)衣装をつけろ

「芝居だと。気が動転して何をどうしてよいか分らない。お前はなんだパリアッチョ。衣装をつけろ、化粧をしろ。見物人は金を払ってここへ笑いに来ている。アルレッキーノにコロンビーナを盗み取られても笑えパリアッチョ。打ち砕かれた愛、口惜し涙も笑いにされて拍手喝さいなのだ。笑えパリアッチョ。お前の苦痛の心がお前を惨めにするのだ」鏡を見ながら涙ぐみ幕が下ります。

第2幕 道化芝居の舞台 

口を大きく赤に化粧した笑いのピエロ姿のトニオが大きな太鼓を叩き芝居の開演を告げています。村人達は「お芝居が始まる早く行こう」と広場に設けた小さな舞台の周りに集まってきます。ぺッペが皮袋を差出しお金を集めています。「もう23時も過ぎた早く始めよ」の催促。舞台の幕が開き、ネッダが面白おかしく食卓に二人分の食器を並べながらおどけた演技で「パリアッチョは遅くしか帰ってこない、ダッテオは使いにやった、私一人」。窓の下に見たてた小舞台でアルレッキーノ役のぺッペがおどけた恋のセレナード「ああコロンビーナ、君のアルレッキーノはため息をついて君を待っている、窓を開けて顔を見せてくれ」と歌っています。ダッテオ役のトニオが登場し面白おかしく「俺の者になってくれ」とコロンビーナを口説きますが馬鹿にされています。アルレッキーノが登場し二人は愛の言葉を交わしますので「俺は見張りをしよう」と舞台から消えます。アルレッキーノが「この妙薬をパリアッチョに飲ませ、寝ている間に逃げよう」そこに「大変だパリアッチョが帰ってきた」アルレッキーノが観客席に逃げます。近くにシルヴィオが来ています「今夜だよ」の演技に、「私はあなたのもの」とネッダ。「同じ台詞だ」と目に黒い線を入れた悲しみのピエロ姿のカニオがつぶやきます。気を取り直し道化パリアッチョを演じますが「男がいたな」の台詞と異様な目付きにネッダはドキッとしますが道化芝居を続けます。「このやろう、俺だって人並みの人間だ、情夫の名前を云え、不実者」。「ああパリアッチョ」。「やめよ俺はもうパリアッチョではない。色の白いのは復讐の心で血の気が失せているのだ、云え情夫の名前を」と言ってネッダを抱き「愚かな俺は道端で死にかけているお前を救い、名前をつけ、熱病にかかった様にお前を愛した。なのにお前は俺を裏切った」、「迫真の芝居に涙を誘う」と観客「じっとしていられない」とシルヴィオ。

(t)「お前は俺の希望だ。愛が無かったら、憐れみも慈悲の心もない。俺は神よりもお前の事を信じ愛した。だがお前の心に悪が宿り、お前は欲情の虜になった。卑しい売女め」、「気に入らないなら追い出して」とネッダ、「情夫のところに行くというのか、今その男の名前を云え」とカニオはネッダの首をしめます「すばらしい演技だ」と観客「悲劇にするの」と云って道化芝居に戻そうとするネッダ。「分らんのか、男の名前か、お前の命だ」、道化芝居を諦めたネッダは芝居道具の机を放り出し「あなたの怒りよりも私の愛情の方が深いわ、死んでも云わないわ」。トニオはカニオにそっとナイフを渡します。放心状態のカニオは渡されたナイフでネッダを刺してしまいます。ネッダは「助けてシルヴィオ」と叫んで絶命します。カニオは駆け寄ったシルヴィオを「お前か」と言って刺し殺します。トニオは薄笑いを浮かべ、カニオはネッダの亡骸を抱きかかえ見物人に向かって哀しげに「これで喜劇は終わりです」と言って幕が下ります。

 

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