「私なりのオペラ名作選」そのストーリーと名曲
歌劇「コシ・ファン・トゥッテ」のストーリー
女はみんなこうしたもの
台本 イタリア語 ロレンツォ・ダ・ポンテ作
作曲 アマデウス・モーツアルト
初演 1790年
時代場所 18世紀中頃のナポリ
登場人物
フェラーラ出身のフィオルディリージ(s)、その妹フェルランドの恋人ドラベルラ(s)、侍女デスピーナ(s)、フィオルディリージの恋人士官グリエルモ(br)、ドラベルラの恋人士官フェルランド(t)、哲学者ドン・アルフォンゾ(br)、その他
物語
第1幕
<ナポリ港近くのカフェー>
40代の有閑な哲学者ドン・アルフォンゾは友人で22,3歳の青年将校グリエルモとフェルランドに「女に貞節は無い、君達の恋人も同じ、女はみんなこうしたものだ」と青年の純粋さをあざ笑います。若い二人は「僕の恋人フィオルディリージに限って、僕のドラベルラ限ってそんなことはない、不貞の証拠を見せろ」。恋人への侮辱に激昂して、剣に手をかける始末です。ドン・アルフォンゾは「君達の恋人は女神か、女の貞操なんてフェニックス(不死鳥)のようなもので見た事が無い。今日中に証明したらどうする、金貨100枚賭けようか」、「1000枚でもいいぞ」、「証明して見せよう。恋人達に賭けをした事を言わない、わしの言う通りに行動する、二つを誓えるか」、「軍人の名誉にかけても」。若い二人の将校は恋人が貞節であるか否かを確かめるために、ドン・アルフォンゾの云う通りにすることを誓います。(女中が前金の金貨1枚でアルフォンゾの手助けを承諾するのですから賭け金は今の100万円くらいでしょう)
<10代の育ちのよい姉妹が住んでいる邸のナポリ湾に面した庭園>
少女好みのおもちゃのようなペンダントに恋人の肖像画を入れて付けている姉のフィオルディリージと妹のドラベルラは(おもちゃのようなペンダントから姉の年齢は16,7歳位。女中の「女も15歳になったら」と歌う事から妹は15歳位でしょう)ペンダントの恋人の絵姿を見つめながら良家のお嬢様らしく「こんな気高い人はいないわ、素敵な口元」、「燃えるような眼差し」とお互いの恋人を自慢し合い、はしゃぎながら「今日はいいことがありそうよ。手相を見てあげる、結婚が早いかも」。「それにしても、お見えになるのが遅いわ」。そこにアルフォンゾが一人で現れますので、姉妹たちは恋人が来ないのを訝ります。アルフォンゾは大げさに「えらいことになった。とても口に出して云えない」、「お亡くなりになったの」、「その1歩手前、王様の命令で今すぐ戦場に行く事になった」幼さの残る姉妹はあまりにも突然の出来事に驚き「お別れも云えないの」、「彼らは悲嘆のあまりここへくる勇気が無い」、「何処にいらっしゃるの」、「ここまで来ているのだが、諸君入り給え」。軍服を着たグリエルモとフェルランドが入ってきます。「悲しい運命に足が運べない」、「行かないで、その剣で胸を刺して」、二組の恋人は抱擁して突然の別れの運命を嘆き悲しみます。グリエルモとフェルランドは悲しみの振りをしながら恋人の嘆きに喜び、賭けに「勝ったも同然」とアルフォンゾに目配せし、「まだこれから」とアルフォンゾはやり返します。
「軍隊生活は楽しいぞ」の合唱とともに兵士を運ぶ舟が庭園の岸壁に着き、兵士達が下りてきて出征を促します。姉妹は別れを惜しみ「きっと、毎日2回は手紙を下さいね、私だけを思ってね、誠実でいてね」と泣きながら別れを悲しみ、グリエルモとフェルランドは兵士達の「軍隊生活は楽しいぞ」の合唱に送られ舟に乗り込み、出帆していきます。三人は「風よ穏やかに」と航海の無事を祈り見送ります。
三重唱「風よ穏やかに」
「風よ穏やかに、波よ静かに、全てのものよ、私達の祈りを聞き届け給え」。姉妹は悲しみに泣きながら出ていきます。一人残ったアルフォンゾは
こういう類の女は(アルフォンゾbr)
「わしもまんざら大根役者じゃないな、それにしても何たる甘ったれた振舞いだ、こういうたぐいの女はすぐに気が変わる、簡単に落ちるぞ、可哀想な奴らだ、女の貞操に金貨100枚も賭けおって。女を信じるということは、海を耕したり、砂漠に種を蒔いたり、風を縛るようなものだ」。40歳を越えた男の権謀術数は、10代の良家の姉妹や若い青年将校を罠にかけ手玉に取る事など造作のない事です。
<居間>
姉妹よりは少し年配の侍女デスピーナがココアを盗み飲みしているところへフィオルディリージとドラベルラが入ってきて突然の別れを悲しんでいます。妹のドラベルラは悲しみのあまり心が錯乱してデスピーナに八つあたりし、
激しい心の痛み(ドラベラのアリアs)
「部屋を暗くして頂戴、出てお行き、どうしてこんなに切なくて苦しいの。私の苦しい心の痛み、私の激しい嘆きの声、死んでしまう前に、復讐の女神に見せてやるわ」。
「あのようなやさしくて誠実な人は他にいない、もし戦死したら」と姉妹が嘆き悲しむ様子にデスピーナは「何てうぶなんでしょう。男なんて他にいくらでもいるのに、嘆くより浮気でもして楽しませんか」と慰め、恋の火遊びを勧めます。
男たちに、ましてや軍人達に(デスピーナのアリアs)
「男たち、ましてや軍人に誠実を期待するなんて、男なんてどれもこれも同じ、騙しの言葉や見せかけの愛撫は男にとっては当たり前、慰めのために女たちを愛するの、そして愛してなんかいなかったと言って捨てるの。こんな男の不誠実に報いるため、女達も男と同じように、気軽に男を愛し、遊ばなくては」。姉妹はあきれて部屋を出ていきます。デスピーナも女中部屋に戻り、部屋には誰もいなくなりました。
そこへアルフォンゾが「部屋中が悲しみだらけだ。慰めてやらなくては」と云って入ってきます。「二人がわしの言う通りに変装している間に策を考えなくては、デスピーナに見破られるかもしれない、見方につけよう」とデスピーナを呼び出し「恋に悩む若者のために手助けをしてくれ」と金貨を渡します。金貨の魅力に承諾したデスピーナは「何処にいるの」、「ここに来ている」。アラビヤの貴公子に変装した姉妹の恋人達がアルフォンゾに呼ばれて入ってきました。変装がデスピーナに気付かれず一安心です。姉妹の声にアルフォンゾとデスピーナは変装した二人を残し、慌てて隠れます。姉妹が部屋に入ってきて見知らぬ若者の姿に驚き、デスピーナを呼んで「こんな悲しいときに男を引き込むなんて、今すぐ出てってもらいなさい」と激昂。アルフォンゾが来て「夢ではないか。これは私の無二の親友達です。どうしてここにいるのか」ととぼけ、「上手くやれ」と二人に目配せします。変装したグリエルモとフェルランドはそれぞれ相手の恋人の前にひざまずき「愛の女神に導かれ、その輝きに、恋に悶える蝶のようにあなた達の廻りをを飛びまわり」と恋を訴えますが、姉妹は[なんて図々しい、許婚がいます]と激しい口調で断ります。恋人の貞淑さに青年将校の二人はうれしくてなりません。
岩のように(フィオルディリージのアリアs)
「みだらな言葉で誘惑しようとしても、私達の操は、風が吹こうが、嵐になろうが、岩のように、揺らぐ事は無いのです。操は私達を輝やかせ、慰め、喜ばせ、死ぬまでこの愛は変わりません。不実な人達よ、貞淑な乙女の私達に敬意を払ってください。二度と無謀な望みを私達に言わないで下さい」。アルフォンゾは「無二の親友達です。話しを聞いてやってください」と姉妹が部屋を出ようとするのを押しとどめ、フェルランドはグリエルモの恋人姉のフィオルディリージに、グリエルモはフェルランドの恋人妹のドラベルラにそれぞれ近寄り口説きます
そんなにすましていないで(グリエルモのアリアbr)
「そんなにすましていないで、愛らしい目でよく見てください、私達は美男子、目も鼻も立派、愛してください、幸せになりたいのです」。姉妹は「私達には大切な人がいます」と怒って部屋を出て行きます。二人は恋人の貞節振りに「勝負は決まった」と賭け金を要求しますが、アルフォンゾは「最後にどうなるかだ」と承知しません。
いとしい人の愛のそよ風は(フェルランドのアリアt)
「いとしい人の愛のそよ風は僕に甘い慰めを与えてくれる、愛に満ちた心があればあとはなにも要らない」。許婚の貞節を確信した二人は喜びながら部屋を出ます。残ったアルフォンゾは姉妹の強固な貞操観念に「どうしたものか」と悩んでいます。そこへ侍女のデスピーナが来て「千人の男をあしらった私だから」と「アラビア貴公子の恋」の手助けを約束します。
<ナポリ湾に面した庭園>
「いとしい人を一瞬の内に奪われてしまったわ。こんなに苦しい運命になるとは思っても見なかった」と姉妹は嘆いています。グリエルモとフェルランドのトルコ貴公子が入ってきて「恋が叶わぬなら砒素を飲んで死ぬ」といって、偽の毒薬を飲んで倒れます。姉妹は驚き「デスピーナ来て」。アルフォンゾとデスピーナが「死んでしまう」と脅し「医者を呼びに行かねば」と、わざと姉妹だけにします。残された姉妹は「苦しそう、どうしましょう」、「苦しんでるのにお姿は素敵ね」と近寄り、体に触れて「冷たい、脈が無い、死んでしまったのかしら、恐ろしい」。アルフォンゾがラテン語を話す医者に変装した侍女のデスピーナを連れて来ました。「様子を聞かせてください」、「毒をいっきに飲みました」、「原因は」、「私達への恋です」。偽医者はカバンから大きな蹄鉄の強力磁石を取り出し「ドイツで発明されフランスで流行っている最新式の治療方法だ」と云って、倒れている二人にあてがい引っ張ると二人の体か動き始めました。「命は取り留めたが、早く抱き起こさないとまた悪くなる」との偽医者の言葉に、育ちのよい良家の若い姉妹は云われるまま若者を膝に抱きます。意識が戻った振りをする二人は「ここは何処、あなたは誰、僕の女神、ヴィーナス」と姉妹の体を触りますので、姉妹は「我慢が出来ない」と訴えますが、「まもなく正気に戻るからしばらくそのままで」と偽医者。調子に乗った貴公子達は「やさしいお顔、くちづけを」と接吻を迫りますので、姉妹は「毒を飲んだ人は地獄に落ちればいいわ」と怒って部屋を出て行きます。苦しむ振りをした二人は恋人の貞節振りに「こんな楽しい場面は無い」と大喜びで笑いこけ、アルフォンゾは「だが結末が楽しみだ」とつぶやいて第1幕が終わります。
第2幕
<姉妹の部屋>
デスピーナが姉妹の着替えを手伝いながら、お姉さんぶった口調で「お嬢様方はまだ若いのだから時には貞淑に、時には恋の火遊びをして楽しみなさい、美男で、お金持ちで、命賭けであなた方に恋焦がれる男性は他にありませんわ、私が呼んだことにして、お楽しみなさい」。姉妹は命まで賭けてくれたアラビヤの貴公子に興味が芽生え「どうしたらいいの」と聞きます。デスピーナは
女が15歳にもなったら (デスピーナのアリアs)
「女が15歳にもなったら、危険から守るために、よいも悪いも、恋の手練手管を知らなければなりません。愛想笑いや空涙、巧みな言い逃れ、どれも恋の手管の第1歩よ。1度に百人に気を配り、千人に目で話しかけ皆に気を持たせるの。本心は隠して、顔を赤らめ、嘘をつき、女王様のようにやりたい放題で男を従わせるの」。姉妹たちはあきれて窓辺に行き海を眺めます。「私の教えは効果てきめん。効き目が合ったわ。デスピーナもやるでしょ」と言って部屋を出ます。姉妹は「デスピーナの言う事をどう思うの」、「許婚があるのにそんなことできないわ」と話しながらも、乙女らしい秘密の冒険心が芽生え出します。「もしもそうするとしたら、どちらを取るか決めましょう」「もう決まっているは」と積極的な妹のドラベルラが言い出します。
二重唱「私は黒髪がいいわ」
「私は黒髪の方がいいわ」、「では私は金髪の方」、「ちょっぴりいたずらしようかしら」、「口説きの言葉にふざけて見せて」、「誰もがするように、ため息をついて見せるの」、「きっと、あの人はこう云うわ。いとしい人、僕は死にそうだと」、「あの人も言うは。僕の宝物」、「何て素敵な気晴らしでしょう、秘密の経験よね」、「誰もがする思わせぶりでね」悲嘆の姉妹ですが、乙女らしい危険な火遊びの経験を想像してうきうきします。そっと様子を見ていたアルフォンゾが「庭で音楽と盛大な宴会をします」と姉妹を庭に誘います。優雅な音楽が聞こえ、まだ10代の姉妹は興味深く庭に出ます。
<ナポリ湾に面した庭園>
楽士とアラビア貴公子のグリエルモとフェルランドが乗った小舟が花に飾られ庭の岸辺に止まっています。アラビア貴公子が庭に下り、そこにアルフォンゾと一緒に姉妹が庭に出てきました。デスピーナも来ました。アラビア貴公子は
二重唱と合唱「やさしいそよ風よ」
「やさしいそよ風よ、この願いを届けておくれ、やさしい女神のもとへ、そよ風よ、いとしい人に伝えておくれ、この嘆きを、心からの願いを」
アラビア貴公子の二人は「お二人の前では唇が震え何もいえません」とコチコチになって立っています。アルフォンゾは「お前達が何もいえないなら俺が代りに云おう」と姉妹に近寄り「愛の奴隷が、おびえながらあなた達にお許しを願いに来ました。あの失礼な振舞いを反省しています。もうご迷惑はおかけしません。望みが叶わぬなら、叶う事を望みます。お答えください」。アルフォンゾは姉妹に「さあ答えて」と催促しますが、姉妹は何も云えません。デスピーナが「私がお嬢様に代わって話しますわ。過去の事は忘れましょう、婚約している事も、そんなにため息をついて苦しまないで、さあ手を差しのべて」。デスピーナとアルフォンゾは「私達は退散しよう。あとはあなた達で」と云って去ってしまいます。火遊びを経験したい姉妹ですがどうしてよいか分からず、天候や木の葉の事しか言葉に出ません。変装の二人もわざと姉妹に合わせています。話題の糸口がつかめない姉のフィオルディリージは変装した妹の恋人フェルランドを散歩に誘い海岸の方に行き、恋人のグリエルモが慌てます。残された妹のドラベルラも変装した姉の恋人グリエルモを散歩に誘います。グリエルモは急に苦しみ出し「こんなときに、きっと毒のせいだわ」、「僕の飲んだのは火山のように熱いもの」、「冷やさなくては」物陰のアルフォンゾが海に飛び込む真似を指示します「僕の望みを叶えてもらえないなら海に飛びこんで死にます」、「お望みは何ですの」、「このハート形のペンダントを貰っていただけますか」、「まあ高価なペンダント」。大人の女性にプレゼントする品物で、15歳の乙女が持つような物ではありません。高価な贈り物に目がくらみながらも
二重唱(トラベルラ、グリエルモ)「高価な品物で誘惑しようとしても」
「高価な品物で誘惑なさろうとしても駄目ですわ」、「貰ってくださらないと僕は死にます。貰っていただけますか。そしてあなたのものを私に下さい」、「それほどおっしゃるのならいただきますわ、でも私のものはものは差し上げれません、ある方だけのものですから」、「では、なぜあなたのここが高鳴ってどきどきしているんです」グリエルモはドラベルラの左の乳房に手をあてます。二人は寄り添い互の胸に手をあてながら「あなたのここもどきどきと高鳴っていますわ」、「何がどきどきさせるのでしょう」、「ここに付けてください」、「ここには付けられません」、「見てはいけません」とグリエルモはトラベルラのペンダントをハートのペンダントに付け替えています「胸にヴェスヴィオスがあるみたい」、「こちらのほうがよく似合います」。トラベルラは高価なプレゼントがうれしく「愛も心も生まれ変わり、新しい喜びと不安が」と接吻してしまいます。グリエルモは「可哀想なフェルランド」とつぶやき、二人は手をつないで出ていきます。
「コブラ、大トカゲ」とフィオルディリージが散歩から逃げ帰ってきました。追って来たフェルランドは「なぜ僕がコブラ、大トカゲです」、「穏やかな心を乱すからです」、「僕がこんなに愛しているのに」、「立ち去って」、「諦めません。なぜあなたは僕を見つめてため息をつくのです」。フィオルディリージを抱き接吻しようとした時、フェルランドは物陰で様子を見ているアルフォンゾを見つけ、形勢不利を悟り、口説きを止めてその場を走り去ります。「どうして行ってしまうの。諦めましょう、何と云う試練、この不実、浮気心、裏切り、きっと罰があたるわ」と
恋人よお許しを(フィオルディリージ)
「恋人よ、恋する過ちをお許し下さい、よこしまな愛に揺らぐ心が私の意志の強さを消します、私の恥辱と慄きも消します。誰に不実と言うの、いとしいあなたへの清純に報いて、もっとよいことがあってもいいはずだわ」と出て行きます。フェルランドがグリエルモに「君の恋人のフィオルディリージは貞節の鏡だ、俺は見事に振られた」と話し「妹のドラベルラはどうだったか」と恋人の貞節を訊ねます。グリエルモはフェルランドの絵姿の入ったペンダントを見せ「落ちた」と自慢げに話します。「信じていたのに、裏切られた、浮気女め」フェルランドは嘆き、「殺してやる」とわめきます。「あんな薄情な女のために人生を駄目にするな」、「どうしたらよいか教えてくれ」、「僕には分からないが」。
女性よあなた方ときたら(グリエルモ)
「世の女性よ、あなた方はよく浮気をなさる、僕はあなた方が大好きだが浮気には失望する。あなた方の名誉も守るため幾度も剣を取った。あなた方は優雅で魅力的だ、天が与えた宝なのに度重なる浮気は信じられない」と歌い、助言を求めるためアルフォンゾを呼びに行きます
あまりにも違う僕の状況(フェルランド)
「僕の状況はあまりにも違う、アルホンゾさんよ、僕をお笑いたいだろう。不実な女を忘れるために僕は復讐する。忘れる事が出来るのか、無理だ。裏切り、不実。僕の心は感じてる彼女を慕い愛しているとを」と嘆き悲しんでいるところへアルフォンゾがきて「立派だ、これこそ貞節、そのうち気が収まる」。勝ち誇ったグリエルモは「僕の勝ちだ、金貨50枚を貰う」。アルフォンゾは「最後の場面がまだ残っている、それまではお前達は私の奴隷だ、わしの指示に従ってもらう」。アルフォンゾには権謀術数の年齢が書いた完璧なシナリオの道化を演じる青い青年将校達の結末など見通しているのです。
<姉妹の部屋>
妹のドラベルラは貰ったペンダントを眺めながら、デスピーナに貴公子との愛を嬉しそうに話しています。そこへ姉のフィオルディリージが入ってきて「私の愛はグリエルモだけなのに、あの方を愛してしまったの」、妹は姉の頬に唇を押し付け「お姉様も愛してしまわれたのね、うれしい、7万回もキスしてあげる」、「不実だわ、帰ったらどうするの」、「戦死したら私達はどうなるの。私達は結婚して外国で暮らしているわ、あの方達は不運なの」、「1日も経たないのにどうしてそんなに変れるの」。ドラベルラは「恋は小さな盗人、いたずらっ子」とフェルランドの絵姿がついたペンダントを姉の首からそっと取り上げ
恋は小さな盗人(ドラベルラ)
「恋は小さな盗人、いたずらっ子、安らぎを与えたり取り去ったり勝手気まま、心を開けば瞬く間に自由を奪ってしまうわ。成り行きに任せれば甘さと喜びを運んでくれる、でもこぶしを上げて逆らえば喜びは消えてしまう。恋が胸に住みつけば、ここをこうやってついばむわ」と姉の乳房をつつき「あとは思うがままに任せるの。私ならそうするは」と歌い、部屋を出て行きます。一人残ったフィオルディリージは「グリエルモが帰ってきたら。私には出来ない、この心の動揺を断ち切るには」とグリエルモの軍服を持ち出しそれを着て「グリエルモへの貞節のために彼のいる戦場に行って一緒に死ぬわ」。陰で様子を見ているグリエルモは「これ以上の愛があろうか」と、うれしくてたまりません。
忍び込んできたフェルランドは友人のグリエルモへの腹いせもあり「あなたの持っているその剣で僕の胸を刺してください。あなたが刺せないなら僕が力を貸します」と必死に口説きます。フィオルディリージは「神様お力を下さい。ああもう耐えられない。あなたを慕っています」と本心を告げてしまい、二人は抱擁します。グリエルモが嘆く番です。
恋人の不実を知ってしまったグリエルモとフェルランドは「そんなに時間がたっていないのに、他の男に心を許すとは、そんな女とは知らなかった、許せない」と復讐を誓います。アルフォンゾは「お前達の恋人は確かに不実だ、だが諦められるか、たとえ他の女性を選んだとしても同じことが起きる」、「復讐しなければ心が収まらない」、「彼女達は変装のお前達を愛してしまった。このまま結婚式をあげよ」、「あんな不実な女と」、しかも相手を取りかえるなんて二人は到底承知出来るものではありません。「まだシナリオは終わってはいない、軍人の誓いを守れ」。二人は茶番が現実となり、もうやけくそです。「お前達に教える事がある」とアルフォンゾが
女はみんなこうしたもの(アルフォンゾ)
「こういう女性を男は非難するが、わしは1日千回心を奪われようとも、許す。ある人はそれは悪癖と言うが、それが女の本性なのだ。絶望の淵にあろうと責めてはいかん。年寄りであろうと、美人であろうと、醜人であろうと、女はみんなこうしたものなのだ」と諭し二人も「女はみんなこうしたもの」と合唱します。デスピーナが「お嬢様たちはあなた達との結婚を承諾されました。3日以内に出発する事も」と告げにきました。これからが40男の分別と権謀術数の見所です。
<居間>
姉妹とアラビヤの貴公子との結婚式が始まります。姉妹は「デスピーナのお陰よ」と戦死するかも知れない恋人より、美男子で金持ちで命を賭けて愛してくれる外国の貴公子との結婚がうれしくてなりません。公証人に変装したデスピーナが差出す結婚証書に喜んで署名します。裏切られた二人は相手も入れ替わってしまい腹が立つばかりですが、軍人の名誉からしぶしぶ署名しました。そのとき鼓笛の音と「軍隊は楽しいぞ」の合唱の声が聞こえました。けげんな顔の姉妹。様子を見に行ったアルフォンゾは「大変だ、恐ろしいことになった。彼らが帰ってくる。」姉妹は慌てふためき「隠れて」、「片付けて」、「不貞が知れたらどうしよう」会場は大混乱。片付が終わった頃合をみて、軍服に着替えたグリエルモとフェルランドが「王様の命令で戦場に行かなくてもよい事になり、いとしい人のもとに帰ってきた」。血の気が失せた姉妹は心臓が止まりそうです。青年達は荷物を他の部屋に運び込み、公証人を見つけ連れてきます。「私はデスピーナ。仮装パーティーの衣装よ」と逃げてしまいます。アルフォンゾはわざと結婚証書を落とし、それを拾い上げた将校たちは「結婚証書だ。貞節を誓っておきながら1日も経たぬうちに裏切るとは、血が流れるぞ」と激昂し、剣を抜いて逃げ惑う姉妹を追いかけます。「許してください。私達は不実です、その剣で私達の胸を刺して」。「相手は何処だ」と結婚相手を探しに行きます。二人は変装用の衣装を持って現れました。全てが茶番劇であった事を知った姉妹は「私達を騙したわね」、「そう、私は騙したが、それでこの若者たちは賢くなった。さあもとの恋人同士に戻って結婚しなさい」、「いとしい方、もしそれが本当なら、生涯愛と操を守ってあなたをお慕いします」、「君を信じよう。もう試す事は無い」。「私でなくてよかった」とデスピーナは胸をなでおろします。もとの鞘に収まって、二人の青年将校は生涯貞淑な妻をめとることになり「分別者とは」を合唱して「コシ・ファン・トゥッテ(女はみなこうしたもの)」の幕が下ります。
五重唱「世に云う分別者とは」
「世に云う分別者とは、理性と良識を持って行動し人生の荒波を巧みに導く人、泣かせる事があっても、それは分別者にとっては計算のうち。そうだから嵐のような世の中も冷静に過ごせるのだ」
(男の40代は権謀術数の年代ですがワルと思わないでいただきたいのです、罠をかけ欺むくことも分別をわきまえた、全てが、一番よい結果を生み出すための手段なのですから。賭け金など取る筈がありません)